黒姫の雪消(ゆきげ)
四月の中頃、
一冬埋もれたままの大地がようやく陽の光を浴び始める。
雪間にフキノトウが嬉しそうな顔を並べていた。
雪の下でも春の仕度は着々と進んでいるのだ。
今季は雪が多く1m70cmほど積もった。
二月に訪れた時には随分と地面から離れたところに立っていて、
まるで空中散歩のよう。
いつもの風景が少し違って見えた。
解けだした水が
ゆっくりとゆっくりと大地に染み込んでゆく。
生命たちを潤しながら、もといた海へと還る。
世界は今、深刻な水不足に苦しんでいる。
今世紀半ばには40億人が水不足に陥るとも言われているなか、
この国はその例を免れている。
資源がない、資源がないと言うけれど、
いったい何をもって資源だと言っているのだろう。
無いものだけに目を向けるのではなく、
あるものに対してもっともっと目を向けたい。
「コップ半分の水」というよく使われる例えがある。
プラス思考マイナス思考の話がしたいわけではないけど、
無いほうに目を奪われ「ない」ととるのか、
あるほうに目を向け「ある」ととるのか。
ちょっと見方を変えるだけで
必要以上に求めるのか、足るを知るのか、
180度違ってくる。
「奪い合えば足らず、分け合えば余る」
震災直後、東京の異常なまでの物不足とその後の収束は
まさにこの言葉そのものだった。
自分達は「足らない」と思い過ぎる。
地球上で最も過酷な地、ジブチの砂漠の民が
その乾ききって"なにもない土地"を指してこう言っていた。
「神が与えてくれた土地であり、
なにひとつ不足のない自由で豊かな土地」なのだと。