美しく暮らしたい
すべてを自らの手で作る暮らし
できることから
ひとつひとつ
美しく暮らしたい
すべてを自らの手で作る暮らし
できることから
ひとつひとつ
壁と床の間から現れた一枚の硬貨。1954年と刻まれている。
この硬貨は一体どんな時代に、どんな人のポケットの中で海を渡り
どのくらいの間この暗い壁の中に閉じ込められていたのだろう。
作業中のひと時、しばし頭は小さな物語の中へ。
米国では、落ちている1ドル硬貨を「lucky penny」と呼び
縁起物とする風習があるそうだ。
新たに作る家のどこかにも忍ばせて、また見守ってもらうことに決めた。
今度はもうちょっと光の射す、息苦しくない場所に居てもらおう。
いつかまた、再び誰かが手にするその日まで。
報告できずに随分と経ってしまった春の自宅の解体。
床板を丁寧に剥がしてゆく。
電動工具を使い、壁際の床板を切って駄目にしてしまえば楽なのだが
一枚も無駄にしたくないので一手間かける。
床板の裏には「秋田 ブナ」の刻印。
愛着あるこの床板がブナだったことが本当に嬉しい。
その立ち姿、樹皮、木肌共にどこか女性を思わせ
群生する森の姿も繊細で美しく、とても好きな木だ。
白神山地のような大きなブナの森からやって来たのだろうか。
今出回っている「ブナ」は大体「ビーチ」という外国産のもの。
思い入れ抜きにしても貴重な材だ。新たに作る家でも大事に使いたい。
各部屋の床をそのまま再現できるよう、一枚ずつ記号と番号を記していった。
長い月日の中で刻み付けられた、人の暮らしが描く痕跡は
一枚の画そのものだと思うから。
絹毛に白化粧された若葉もまた綺麗なブナ。
日本中のブナ林同様、黒姫のブナ林も既に失われてしまっている.
だから毎年少しづつ、自分の土地にブナを植え続けている。